業界情報

“人が足りない”
LPガス業界における人材確保のヒント

人手不足が深刻化する中で、LPガス業界も例外ではありません。
ここでは、新卒採用の動向や学生の志向、SNSを活用した広報の可能性、配送現場の課題、中小企業ならではの採用の悩みなどを通じて、業界が直面する「人材」の問題と、その対応のヒントを探ります。

■新入社員を迎えた春
──採用環境とその実情

新年度を迎え、LPガス業界に夢を描いた新入社員が入社し、4月1日には各社で入社式が執り行われました。各社のトップからは、「コミュニケーションを大切に」「感謝と謙虚な心を忘れずに」「楽しい仕事に挑戦」などの激励の言葉とともに、自社のビジョンが語られました。
現在、多くの企業が人手不足に悩まされており、優秀な人材の確保がますます困難になっています。特に業界ごとの人手不足の格差が深刻で、人手不足の割合が7割を超える業界もあります。企業の採用担当者からは「募集をかけても人が集まらない」という声が聞かれ、とくに中小企業でその傾向が顕著です。
来年春に大学などを卒業する学生を対象とした採用活動について、政府のルールでは、今年3月から広報活動、6月から選考活動が解禁されていますが、強制力はありません。すでに3月中にいくつかの内定を得ている学生も多く、採用活動の早期化が一層進む見通しです。学生の内定保有率は、6月末時点で78%に達しています。

■学生の志向と企業の“見せ方”
──変化と対応

学生が仕事に求める価値観には、2017年卒以降、大きな変化は見られず、「安定」「貢献」「成長」がトップ3を占めています。「安定」は、安定している・バランスが良い・保証がある・安心できるといった点。「貢献」は、社会に貢献する・人に信頼される・人の役に立つこと。「成長」は、成長し続ける・自分を鍛える・自分を試すこと、などが挙げられています。
最終的な就職先の決定にあたっては、「やりたい仕事ができる」「社員や社風が魅力的」が重視される一方で、「育成に力を入れている」「入社後のキャリアを具体的にイメージできる」といったポイントに注目する学生も増えてきています。
企業に対して安定性を感じるポイントとしては、「福利厚生が充実している」が最も多く、次いで「安心して働ける環境である」が続きます。福利厚生の充実とは、例えば休暇制度、家賃補助、自己啓発制度などがあり、特に休暇制度は重視されており、「年間休日120日」をキーワードに企業を検索する学生も少なくありません。実際に、あるエネルギー事業者が年間休日を113日から120日に変更したところ、新卒採用が倍増したという事例もあります。


いわゆるZ世代の就活生の約58%は、「Instagram」「TikTok」などのSNSを活用して就職活動をしています。SNSは、動画や画像を通じて企業の魅力や働く環境を直感的に伝えやすく、実際に働く社員の姿や職場の雰囲気を見せることができます。また、情報を一方的に発信するだけでなく、双方向のコミュニケーションツールとして活用できる点もメリットです。拡散力があり、低コストで運用できることから、「自社の魅力」をPRする手段として、SNSを活用しない手はないでしょう。もちろん、自社の“顔”ともいえるホームページの情報を日頃から更新しておくことも欠かせません。

■深刻な“現場の人材不足”
──配送と物流の課題

近年、物流業界におけるドライバーの人手不足も深刻化しています。いわゆる「2024年問題」により、今後の物流を支える環境整備が喫緊の課題となっています。厚生労働省が令和5年2月に公表した一般職業紹介状況によると、運送業の有効求人倍率は2.23倍となっています。LPガス業界でも、昨年末にはローリードライバーの不足により、オーダーどおりの供給ができない事態が発生したとの報告もありました。

LPガス配送は、物流業界の中でも特に特殊性の高い業務といえます。労働環境としては、約80kgの容器を手作業でトラックに積み込み、顧客先を回って使用済みの容器と交換します。繁忙期には1日約80本を運ぶという重労働です。さらに、保安関連の資格や知見・経験が必要であり、配送ドライバーの人手不足が深刻化しており、人員確保が大きな課題となっています。
加えて、配送先や充てん所に関する情報に加え、担当エリアの地理や道路事情にも精通していることが求められます。最近では、無線通信技術によりLPガスメーターの指針値情報を取得し、残量がゼロになる直前で交換を行う仕組みや、AIを活用した自動配送計画の策定、共同配送による非効率な錯綜配送の解消など、配送効率化に向けた取り組みが進んでいますが、配送員の高齢化などによる人手不足は依然として深刻です。

■中小企業の悩みと打ち手
──採用の見直しと定着策

中小企業庁のデータによると、従業員数は2009年をピークに減少し続けており、あらゆる企業で人材確保が課題となっていることがうかがえます。中小企業が人手不足に陥りやすい要因としては、知名度が低く、新卒採用に苦戦する点が挙げられます。大企業が同時期に多数の求人情報を発信する中で、中小企業の採用情報が埋もれてしまい、応募が集まりにくくなるのが実情です。

たとえば、学生が就職活動を始める際、まずは大手企業の説明会に参加することが多く、そこで興味を持つと、他の企業の採用情報を探さなくなる傾向があります。その結果、中小企業の情報にはなかなかたどり着かず、新卒の応募が集まりにくくなってしまうのです。
人手不足を解消するには、「働きやすい職場環境づくり」への取り組みをはじめ、雇用の視点からの戦略的対策が求められます。労働環境や労働条件の改善、デジタル化による業務効率化、働き方改革の導入、採用手法の見直しといった取り組みは、採用活動だけでなく、離職防止にもつながる重要な施策といえるでしょう。