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第4回 社会保険の適用拡大、改正の注意点

パートタイマーを雇用する事業所は多いと思いますが、2025年5月に成立した法改正により、社会保険の加入対象の拡大が順次行われることになりました。今はまだ社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入していない場合も、今後の改正に向けて注意する必要があります。

現行の社会保険の加入対象は?

現行では、法人の事業所(事業主だけの場合も含む)や、個人事業所であっても法定17業種に該当し常時従業員が5人以上いる場合は、適用事業所として社会保険の加入対象になります。さらに、適用事業所に使用される社員(週の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上ある者)と、以下4つの要件を満たす場合は「短時間労働者」として、社会保険に加入しなければなりません。

  • 1. 週の所定労働時間が20時間以上 
  • 2. 給与が月額8万8000円以上
  • 3. 2ヵ月超の雇用見込みがある
  • 4. 学生でない事

 ※従業員数が常時51人以上の特定適用事業所の場合 

今回の改正により、変更されるポイントは大きく3つあります。
以下、内容について確認していきましょう。 

Point1:短時間労働者の企業規模要件を縮小・撤廃

現行では、常時51人以上の従業員(厚生年金保険の被保険者、以下同じ)がいる事業所が「特定適用事業所」となりますが、10年かけて段階的に企業規模要件が縮小されることになりました。具体的に、2027年10月から従業員数36人以上、2029年10月から従業員数21以上、2032年10月から従業員数11人以上の事業所が対象となります。
そして、2035年10月からは従業員10人以下の事業所においても、短時間労働者が週20時間以上働く雇用契約であれば加入対象となり、企業規模要件が撤廃されます。

出典:厚生労働省ホームページ

Point2:短時間労働者の賃金要件を撤廃

現行では、いわゆる「年収106万円の壁」として意識されている、「月額8万8000円以上」の賃金要件があります。しかし、近年みられる最低賃金の上昇から、実態とそぐわなくなっている状況があります。そこでこうした賃金要件を意識せず、個人のライフスタイルに合わせて働き方を選びやすくするように、この賃金要件が撤廃されることになりました。撤廃の時期は、法律の公布から3年以内とされています。
賃金要件が撤廃されると、週20時間以上の所定労働時間および2ヵ月以上の雇用見込みがあれば、学生を除き、短時間労働者として社会保険の加入対象となります。

Point3:個人事業所の適用対象を拡大

現在、個人事業所のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種の事業所(以下参照)は、社会保険に必ず加入することとされています。今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の者を使用する全業種の事業所が2029年10月から適用対象となります。
ただし、2029年10月1日施行時点ですでに存在している事業所は、当分の間は対象となりません。5人未満の個人事業所は、現行どおり適用対象外です。

  • ①物の製造②土木・建設③鉱物採掘
  • ④電気⑤運送⑥貨物積卸
  • ⑦焼却・清掃⑧物の販売⑨金融・保険
  • ⑩保管・賃貸⑪媒介周旋⑫集金
  • ⑬教育・研究⑭医療⑮通信・報道
  • ⑯社会福祉⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律会計事務を取り扱う士業 

人材確保のうえでも社会保険は重要に

従業員は社会保険に加入することで、将来の年金が増えたり、病気や出産の際などに給付金が受けられたりするなどのメリットがあります。社会保険料は労使折半となるため、事業主側としては、法定福利費が増加するという課題は見過ごせません。
しかし、今後さらなる人手不足が懸念される中、人材を確保するうえでも社会保険を完備し、福利厚生を高めていくことは重要な施策といえます。

佐佐木 由美子

社会保険労務士、人事労務コンサルタント

グレース・パートナーズ社労士事務所、グレース・パートナーズ株式会社代表。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。開業後は中小・ベンチャー企業を中心に、人事労務・社会保険面から経営と働く人を支援。経済メディアや雑誌、書籍など多数執筆。著書に「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)など。


「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)