2025年9月16日
三宅産業株式会社
代表取締役社長
三宅 慎二
(Shinji Miyake)
香川県観音寺市に本社を構える三宅産業株式会社。1868(明治元)年の創業以来、約157年にわたり地域と共に歩んできた。石炭問屋「三宅商店」として始まった同社は、時代の変化に柔軟に対応し、今では従業員約90名を擁する多角的な生活関連サービス企業へと成長を遂げている。
今回、話を聞いた三宅慎二社長は、創業時から数えて8代目にあたる。
先代(三宅社長の父)の時代に法人化し、2025年で70周年を迎えた。当時の社名は「三宅石炭株式会社」だったが、間もなく燃料革命の波が押し寄せ、石炭から石油やガスへとエネルギー源が急速に転換していった。そこで着目したのが、比較的少ない投資で始められるLPガス事業だった。これが大きな転機となり、会社を救うことにもつながったという。
地域と共に歩んできた三宅産業。70周年記念事業として観音寺市・三豊市へ寄付を行い、地元広報誌で紹介された記事(左)と、これまでの地域貢献に対して贈られた感謝状(右)
その後、「三宅産業株式会社」へ社名を変更。LPガスから燃焼器具販売、配管工事、水道工事、電気工事、リフォーム事業、太陽光発電、フロン回収破壊事業も担うなど、顧客ニーズのみならず、地域の関係業者からの依頼や相談にも応えながら、事業を拡大してきた。
「大工さんから『電気工事もやってくれないか』と言われたことがあったんです。水道と電気、別々の業者に説明するのは手間がかかる。それなら三宅産業が全部やってくれれば一度で済む、という話です。地域の要請に応じて事業の幅を色々と広げてやってきて、ここまできたというかんじです」と、三宅社長は笑顔で語る。
経営の核となっているのは、先代から受け継いだ「断らない」精神だ。
「先代である父は『お客様が困っているのに断ったら、もっと困る。とりあえず受けてから考えろ』と言っていました。この教えが浸透し、今では『困ったら三宅産業に相談すれば何とかなる』という評価をいただいています」。
三宅社長自身も、その姿勢を引き継いでいる。夜中のガス切れ対応で、ナビもない時代に懐中電灯で一軒一軒の表札を照らしながら必死に容器を届けた、という新人時代のエピソードを振り返りながら語ってくれた。
「厳しい環境だったからこそ、その時の経験が現在のサービス精神の原点となっていると思う。わからない依頼もまずは受け、ベテラン社員に相談して解決策を学ぶ、そうしてノウハウを蓄積していき、今では本当に断ることはほとんどない(笑)」。
この精神は企業風土として根付き、三宅産業の大きな強みとなった。ガス、リフォーム、設備工事など複数の部門が連携し、顧客の多様なニーズに応えられる体制を築いてきたことが、大きな土台となっている。
こうした総合力は成果にもつながっており、同社が参画する四国HLエネクス会の機器販売キャンペーンでは、昨年度、販売店対抗機器ポイント部門で1位を獲得した。ガス部門が掴んだニーズを他部門が実現し、新築アパートの大型案件受注につながったのだという。まさに、多角的な事業展開が足がかりとなった連携の成果といえよう。
毎年11月に開催される秋の総合展示会は、同社、そして地域にとっても一大イベントとして定着している。3日間で約4,500名(最盛期は6,000名超!)が来場する大規模なものだ。ちなみに、コロナ禍でも「秋のミニ展示会」として規模を縮小し、屋外のみ2日間開催として決行。来場者は800名と少なかったものの、滞在時間が長く、通常以上の売上を記録したという。
準備は半年前から始まる。実行委員会を組織し、委員長と副委員長2名を置き、副委員長のうち1人は委員長経験者、もう1人は翌年の委員長を務める仕組みで、ノウハウが引き継がれていく。
本社社屋と駐車場等を含む1,600坪の敷地にテント45張を設営し、ガス機器展示のほか、地元の飲食店、各種ワークショップ、マッサージコーナー、全国各地の物産展など多彩な出店が並ぶ。これを実現するため、ガス機器メーカーとの説明会や入念な打ち合わせ、出店者の選定や手配など、準備には細やかな調整と労力を要する。
2024年の秋の展示会の様子。三宅社長も自らブースに立って率先して営業を行う
売上だけを目的とせず、文化発信や地域活動の発表の場を設けていることは、同社の展示会の大きな特徴だ。「文化コーナー」として、幻の蝶と呼ばれる「アサギマダラ」の保護活動を紹介する団体の展示が行われた際は、大きな話題となった。また、ワークショップを出店した木工作家からは「イベント中止が続く中で創作意欲を失いかけていたが、この場があって本当にありがたい」と、出店者からの感謝の声も多いのだという。
「来場客も出店者も皆で『今年も来たよ』『元気でやってる?』と、毎年声を掛け合う様子が見られるのは、この展示会ならではの光景ですね」と、三宅社長もうれしそうに話す。地域コミュニティの核となっていることの何よりの証拠だ。
同社の経営理念は「美しい生活の創造」。お客様の暮らしをより美しく、より快適にすること。共に働く関係者すべての生きがいを育むこと。そして、地域の環境美化に貢献すること――。この3つの柱から成る理念は、1987(昭和62)年から続く経営新発表会で繰り返し確認され、全社員が大切に共有してきた。
その実現を支えてきたのが、地域に根差したLPガス事業と機器販売である。電気料金の高騰でオール電化のメリットが薄れてることに加え、災害時のエネルギー源としての価値が再評価される中、地道な啓蒙活動の成果もあり、同社での契約件数は現在も増加しているそうだ。
本社内に設けられたガス機器とリフォームのショールーム
また、高松支店をリフォーム専門店「M’sスタイル」として刷新してから8年、着実に客数を増やし、成長を続けている。実は、ヒートショック発生件数が国内で最も多いと言われているのが香川県。その地域特性を踏まえ、LPガス事業と連動させた形で断熱リフォームや床暖房などの提案も積極的に行っているという。
そして今、新たな注力分野として観音寺市の空き家バンク窓口業務に乗り出した。売買の仲介だけでなくリフォーム工事にもつなげられるこの事業は、新築価格の高騰で高まる中古住宅活用ニーズにも応えるものだ。
「長くこの地で商売をしているからといって、それだけで引き合いが増えるわけではありません。あぐらをかくことなく、感謝の気持ちを持ち、安くて便利、そして美しい生活をお客様に提案していく使命感があります」と三宅社長。地元に根付いて157年。石炭から始まり、時代と共に進化してきた三宅産業は、理念を胸に、これからも地域と共に歩み続けていく。