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2025年5月15日

第2次トランプ政権下、米国エネルギー政策の今後を占う

2025年1月20日、波乱含みでスタートした第二次トランプ政権。4月末で発足から100日が経過しました。世界のエネルギー情勢を一変させた2000 年代後半の「シェール革命」のインパクトが記憶に新しい中、米国のエネルギー戦略は、世界経済、ひいては日本のエネルギー需給にも影響を与えることは必至。そこで、日米両国のエネルギー事情に詳しい、クリーンエネルギー研究所の阪口幸雄氏に、米国エネルギー政策の行方について伺いました。

▼シェール革命に関する過去の記事はこちら▼

――米国のエネルギー政策に大きな方向性の転換はない

米国ではトランプ大統領が再選を果たしましたが、米国のエネルギー政策は中露との対立、メキシコ湾における採掘関連のトラブル、異常気象などの要因により、迷走を続けています。米国は、50 の州が集まってできた連邦国家です。政策への取り組み方はそれぞれの州で異なるため、連邦政府の権限は限られており、実際に日々のエネルギー政策を引っ張っているのは州と民間です。
トランプ政権二期目がスタートを切りましたが、エネルギー政策に関して軽微な変更はあるものの、大きな方向性の転換はないというのが私の予測です。

▼米国のエネルギー政策の動向

――米国は世界最大の産油国に

米国は長年、石油と天然ガスの生産を基盤にエネルギーを供給してきました。特に、シェールガス生産の本格化により、2024 年には、1 日に1320 万バレルもの石油を生産し、世界最大の産油国になりました。天然ガスの生産も増加傾向にあり、2024 年にはカタールを抜いて世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国となりました。
米国のエネルギー価格が高いことについて、要因にはまず国際市場価格の影響が挙げられます。石油や天然ガスの価格は世界的な需給バランスや地政学的リスクに左右され、国内の精製能力の不足や施設の老朽化等もエネルギー価格を押し上げています。これらにより、ガスや石油の掘削量を増やしても、末端のエネルギー価格が下がるわけではなく、トランプ政権の増産命令があっても高止まりすると考えられます。

▼米国のエネルギー生産と消費の推移

出典:米エネルギー情報局(EIA)

――増大するLNGの輸出

こうした中で、液化天然ガス(LNG)の輸出は大幅に増大する見込みです。液化天然ガスの輸出拠点の取扱量の推移は2020 年から増え始め、バイデン政権時に建設がスタートした多くの施設が今年から稼働を始めます。
この背景には、国内のシェールガス生産の増加と、欧州やアジアを中心とした世界的なLNG需要の高まりがあります。特に、ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州はロシア産ガスへの依存を低減するため、米国産LNG の輸入を拡大しており、その影響で米国のLNG輸出インフラの整備が加速しています。米国は世界最大のLNG 輸出国としての地位を確立しつつあります。

▼北米のLNG輸出能力の増加

出典:米エネルギー情報局(EIA)

――しばらくは天然ガス火力発電の重要度が増す

現在、アメリカの年間電力需要は約4,000TWh であり、2005 年からの20 年間ほぼ横ばいです。しかし、今後はAIの成長や電気自動車の普及、重工業分野における電化等により電力需要の増加が予想されます。2050 年に向かって原発の停止が進みますが、再エネ発電は急には伸びず、しばらくは天然ガス火力発電の重要度が増すと考えられます。

▼天然ガス火力発電が重要となる理由

●既存のインフラを活用でき、コスト面で優位性が高い
→米国にはすでに多数のガス火力発電所があり、新設するよりも既存設備を延命する方が容易。
●コストパフォーマンスが良い
→建設コストが比較的低く、運用面において柔軟性に優れている。さらに、調整力としても使うこともできる。
●安定した供給が可能

→米国はガスパイプラインが米国内を縦横に走っていて輸送しやすい。価格変動はあるが他国と比べ安価に調達できる。
※電力系統安定性の観点や、排出削減の面でも天然ガスは石炭よりも優位に立つ

――日本は市場動向を見極め柔軟な対応を

トランプ政権の下でも、エネルギー政策は大きく変わらないと考えます。それでも日本は米国市場への対応を慎重に進める必要があります。特に、シェールガスや石油関連技術の需要が増加する可能性が高く、日本企業はこれらの市場動向を見極めつつ、適切な技術開発や供給体制の構築を進めることが求められます。また、規制緩和が進むことで、従来の市場環境が変化し、事業機会が拡大する一方で、新たな競争が生じる可能性もあるため、その影響を慎重に分析し対応することが重要です。

一方で、エネルギー効率技術や炭素排出削減技術は引き続き重要な市場となる可能性が高く、これらの分野での技術開発や事業展開を強化し、環境規制の変化に柔軟に対応できる体制を整えることが求められます。
また、日本はエネルギー安全保障の観点からも米国とのパートナーシップを強化し、安定的なエネルギー供給の確保に貢献することが重要です。
トランプ政権の政策がどのような方向に転じても対応できるよう、柔軟な戦略を持ち、政策リスクを常に監視しながら迅速に対応できる体制を構築することが不可欠です。

阪口 幸雄

クリーンエネルギー研究所 代表

シリコンバレー在住40 年の著名コンサルタント。米国のクリーンエネルギーと、日本のビジネスへの影響にフォーカスしたコンサルタント会社の代表を務める。シリコンバレーを中に、エネルギー問題の定点観測を長期間行い、今後の動向と日本企業の対応についてのきわめて明解なビジョンを持つ。日本の大手エネルギー企業、政府機関、大学等のアドバイザーを多数務める。