Re Edit

過去から読む、ホルムズ海峡封鎖の影響と今後

LPガスを容器で軒先に届ける。その当たり前の営みの裏側で、海の上のルートは、この十数年で大きく姿を変えてきました。今なお、ホルムズ海峡の緊張状態が解けない中、その営みにも影響が及んでいます。これは慌てる必要のある話なのかどうか、少し歴史をさかのぼりながら、改めて見ていきます。

▼LPガス調達の変遷をたどる過去の記事はこちら▼

――揺らいだ「中東一強」

かつて、日本に届くLPガスのほとんどは中東からやってきていました。サウジアラビアの国営石油会社が毎月通知する価格、いわゆるCPが世界の指標として君臨し、価格の主導権を産ガス国が握る時代が、長く続いていました。
その構図に風穴を開けたのが、米国の「シェールガス革命」です。2006年頃から本格化し、2010年以降、日本の元売各社は競うように米国産シェール由来のLPガス輸入へと舵を切っていきました。中東からのプロパン輸入は2012年度の約870万トンから、2016年度には約420万トンへと半減。入れ替わるように米国からの輸入が膨らみ、2016年度には日本に入るプロパンの実に4割超が、米国産シェール由来のものへと変わっていきました。
翌2017年度には、それが6割超にまで達します。わずか数年で起きた、決定的な逆転劇でした。

出典:日本LPガス協会「国別輸入量推移(~2025年度)」

――パナマ運河が縮めた「海の距離」

この流れを後押しした出来事の一つが、2016年に完成したパナマ運河の拡張工事です。それまで米国から極東へガスを運ぶには、アフリカ南端の喜望峰を回って片道45日。それがパナマ運河経由で30日ほどへと大きく縮まります。大型のLPガス運搬船が無理なく通れるようになり、運賃は下がり、調達はぐっと柔軟になりました。
調達先が増えるということは、どこか一カ所が滞っても、別のルートで補える、ということでもあります。2018年度には、米国をはじめとする中東以外からの輸入が全体の4分の3を占めるまでとなり、「中東頼み」だった日本の調達は、いつの間にか、一カ所の変動に左右されにくい構造へと変わっていきました。

――需要は、静かに減っていく

一方で、肝心の国内需要のほうは、緩やかに減り続けています。人口の減少や少子高齢化で世帯のあり方が変わり、そこへ省エネ機器の普及や、他の燃料への切り替えが重なって、家庭用も業務用も、年々目減りしていきます。これは今に始まった話ではなく、また急変する類のものでもありません。
国内で使うガスの大半は、いまも輸入に頼っています。日本でとれる分は、石油を精製するときに出る副産物が中心で、近年はおおむね1割〜2割弱にとどまります。とはいえ供給に余裕がないわけではなく、足元でガスが足りないという声は、いまのところは聞こえてきません。

――ホルムズ海峡の封鎖、そのとき

そして2026年2月末。イラン周辺の軍事的緊張が高まり、ホルムズ海峡が事実上、封じられました。通る船は普段の一割ほどに減り、多くが喜望峰を回るルートへと迂回しているといいます。
報じられる光景は、たしかに穏やかではありません。ただ、ここで思い出したいのが、これまで見てきた調達構造の変化です。日本のLPガスは、すでに中東への依存度がぐっと下がっています。現在の主役は米国です。ホルムズ海峡が閉じても、ガスの供給そのものがすぐに止まるわけではありません。実際、封鎖下でも日本に関わる運搬船が中継地を経て航行を続けた例が伝えられ、業界団体も今のところは供給に大きな混乱はないとの見方を示しています。

在りし日のホルムズ海峡を航行する外航船

とはいえ、まったく無傷ではいられません。日本は原油の9割超を中東に頼り、その大半がホルムズ海峡を通ってきます。言うまでもなく、海峡が閉じれば原油価格は上昇し、その影響は巡り巡って、LPガスの調達コストにも伝わってきます。船の運賃や保険料の高騰、円安も重なれば、輸入価格を押し上げる要因となります。ガスだけでなく、電気もガソリンも、値上がりの圧力にさらされる構図です。つまり、量の心配は小さいものの、価格の揺れは避けにくいーーここが、今回の局面を見るうえでの勘どころといえるでしょう。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁
「エネルギー動向(2026速報版)」

――慌てず、しかし手は打つ

では、LPガス販売事業者として何ができるのか。
一つは、在庫の確認です。容器やタンクの蓄え、ローリングストックの量を改めて点検しておくことです。とりわけ、家庭や医療機関、自治体といった「止められない先」への供給をどう優先するか、その段取りを描いておく必要があります。
もう一つは、価格についての説明です。どんな基準で、どう料金に反映するのか、あらかじめ筋道を立て、顧客にきちんと伝えられるようにしておきます。値上げそのものより、説明がないことの方が、信頼を損ないやすいものです。
そして、情報を届け続けることも欠かせません。今、世界で何が起き、自分たちはどう構えているのか、折に触れて顧客に語りかけることが、漠然とした不安をやわらげる、一番の近道となるでしょう。
とりわけこの夏は、国が7〜9月の電気・都市ガス代に5,135億円の負担軽減策を組む方針を打ち出した一方、LPガスはその対象に含まれていません。「電気やガスは国の補助で安くなるのに、なぜうちは」という声が出やすい場面といえます。LPガス向けには自治体経由の支援にとどまる、という枠組みの違いを、誤解が生じる前に正確に伝えておきたいところです。

出典:日本エネルギー経済研究所 石油情報センター
「LPG価格の動向」

振り返れば、調達先を一カ所に縛らず、少しずつ広げてきた歩みそのものが、今の「守り」になっているといえます。慌てる必要はない。けれど、手をこまねく時でもない。過度に不安がる必要はなく、かといって楽観もできないというのが現況といえます。情勢を見極めながら、できる備えを着実に進めていくことが大切になるでしょう。