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子育て世帯に部屋を貸す

支援制度を活用してニーズを取り込む

物件の立地や環境によって、ターゲットはさまざまに考えられますが、明らかに供給が足りていない高齢者、低所得者、子育て世帯にターゲットを絞って部屋を貸すことは有効な空室対策だと思われます。特に急速に少子化が進む日本では、子育て世帯の住まいについてもさまざまに経済的支援が策定されています。今回は子育て世帯を受け入れるための対応策について見ていきましょう。

2025年5月30日

ファミリー層の賃貸ニーズが増えている

厚生労働省の人口動態統計によると、2023 年に生まれた子どもの数は 72 万 7277 人で、8 年連続過去最少の数字となりました。一人の女性が一生に出産する子どもの数の指標である合計特殊出生率は 1.20 となり、こちらも過去最低の水準です。近年、少子化のスピードが加速し、国として子育て世帯への経済的支援を推進しているのはご承知の通りです。
 国土交通省でも、公営住宅等の整備、民間の空き家を子育て世帯向けに活用するほか、子育て世帯が多く住む集合住宅を対象に「子育て支援型共同住宅推進事業」を行っています。また、住宅の省エネ改修等を支援する「子育てエコホーム支援事業」も実施しています。
 一方で、近年の物件価格や金利の上昇から、本来は自宅の購入を検討していたはずのファミリー層が賃貸住宅指向へとシフトしておりニーズが増加。また、テレワークの推進、通勤・通学の弾力化もあり、より子育てしやすい環境づくりのために郊外エリアに住み替えをする傾向も顕著です。初期投資が
少なく、引っ越ししやすい賃貸住宅に対して、確実にファミリー層のニーズが増えているということがわかります。

子育て世帯が気にするのは防音性、立地、間取り

ニーズは増加しているものの、ご自分の物件が子育て世帯の居住に向いているかどうかを確認する必要があります。具体的に子育て世帯が賃貸住宅に求めているものは何かを見ていきましょう。

防音性

ファミリー向け賃貸住宅で一番に求められるのはその防音性です。どうしても隣人との距離が近いので、子どもの泣き声や足音が響きやすくなり、トラブルになるケースが多いようです。つまり、子どもの騒音対策を防ぐために以下の3つのポイントをクリアした物件が求められています。

・音が響きにくい構造の建物であること

鉄筋コンクリート造のマンションや重量鉄骨造のアパートなどは防音性に優れていますが、アパートでよく使われる軽量鉄骨造や木造では音が響きやすい構造になってしまいます。

・騒音トラブルになりにくい環境の物件

自分たちと似た家族構成の入居が多い物件であれば、トラブルになりにくい環境といえます。子育て世帯が周囲に多ければ、少しの騒音であればお互い様と思ってもらえる可能性が高いからです。集合住宅であれば、1 階や角部屋、1 階がテナントや駐車場の建物の 2 階も子育て世帯に向いているといえるでしょう。

・騒音トラブルに発展しないための工夫を施せる物件

鉄筋コンクリートの物件であっても、床、壁、窓からの音の響きでトラブルになる可能性があります。足音が響きやすいフローリングでも吸音マットやカーペットなどを一枚敷くだけで対策になりますし、隣家との間の壁に家具を集中させると効果的です。騒音対策を施しやすい物件であることが望ましく、二重窓や防音壁などを導入できれば、子育て世帯はもちろん、音にナイーブな入居者へのアピールにもなります。

立地

ファミリー世帯の物件探しは「駅への近さ」だけでは良い立地といえない場合があります。間取りや設備はリノベーションで変更できますが、立地や周辺環境は変えられないため、ご自身の物件をよくチェックしましょう。

・保育園の待機児童数や通勤ルートの確認

小さい子どもがいて共働きの家庭の場合、その地域の認可保育園の待機児童数は最も気になるポイントです。通勤・保育園送迎のルートが便利かどうか、エリアによっては少し遠い保育園に入園が決まる場合もあるので、通える範囲に保育園があるかどうかも把握しておきましょう。

・スーパーや公園が近く平坦な土地が望まれる

子育て中は、スーパーや公園が徒歩圏にあると便利です。また、坂が少なく平坦な立地ですと、自転車で移動しやすく大きなメリットになります。

・小中学校の学区も重要なポイント

小中学校の学区を確認し、ネットなどで公立学校の評判を調べておきましょう。入居者は中学受験・高校受験も見越して検討。通学ルートや近隣の塾まで調べる人もいます。

間取り

子育てしやすい間取りになっているかどうかも、重要な判断材料です。親に子育てを楽しむ余裕が生まれれば、長く住んでもらえますし、安全性が高く、育児や家事を効率良く進められる間取りが望まれています。

・オープンな間取り

食事の支度をしながらリビングで遊んでいる子どもの様子を見守れるキッチンなど、子どもに目が届きやすいオープンな間取りは優先順位が高く譲れないポイントです。

・片付けしやすい収納

子育て中は物が増えるので、片付けしやすく、かつ収納力の高い部屋が望まれています。子どもが小さいうちはリビングで過ごすことが多いので、リビングに洋服やおもちゃなどが収納できるスペースがあるとベター。リビング続きの和室は、収納場所、遊ぶ場所、昼寝のスペースとして活用できます。またベビーカー、自転車、外遊びのおもちゃなど、玄関収納も十分な量が必要です。

効率の良い家事動線で時短を

家事動線が良いと、子どもを見守りながら効率良く家事ができ、時間の余裕が生まれます。また、キッチン・浴室などの水回りがまとまっていると、「調理をしながら洗濯」といった家事の同時進行がしやすいです。また、キッチンなどにベビーゲートなどが設置できるかどうかもポイントです。

「子育て支援型共同住宅推進事業」に見る対応策

子育て世代が求めるニーズについて細かく見てきましたが、具体的に支援制度をどう活用していったらいいのでしょうか。
国土交通省「子育て支援型共同住宅推進事業」は共同住宅(賃貸住宅の新築・改修、分譲マンションの改修)を対象に、子どもの安全・安心対策や、子育て期の親同士の交流機会の創出に関する施設の設置を支援する事業です。まず、活用には「新耐震基準に適合している」「住戸部分の床面積が 40 平米以上」の2つの条件をクリアする必要があります。「子育て支援」が目的の制度なので、対象物件の現入居者は「特定子育て世帯(令和 6 年 4 月 1 日時点で小学生以下の子どもを養育している世帯)」に限られますので注意が必要です。現況が空室の場合は最低 3 カ月間、新規入居者を特定子育て世帯に限定して募集する必要があり、また少なくとも 10 年間は、空室になるたびに同じ募集をすることが求められます。

●子どもの安全確保のための設備の設置

このように募集条件が厳しい分、補助対象工事は幅広く、補助額も十分。例えば改修補助の場合、必須工事「⑥転落防止の手すり等の設置」さえ実施すれば、設備交換から間取り変更まで、下表のような大小さまざまな工事が対象となり、その工事費の 3 分の1(上限 100 万円/戸)が支給されます。

子どもの安全確保に資する設備の設置

●宅配ボックス設置補助

この事業は 2021 年度からスタートしていますが、2024年度同事業の注目ポイントは、「宅配ボックスの設置のみ」も補助対象となった点です。建物要件等に加えて「子育て世帯(18 歳未満を養育する世帯)の入居率 3 割以上」であれば、宅配ボックスを補助金活用で設置できます。例えば 150 万円の宅配ボックスを設置する場合、150 万円×子育て世帯の入居率(3 割~ 10 割)×補助率(3 分の1)=15 万円~50 万円の範囲で支給(補助上限 50 万円/棟)となります。

●交流を促す施設の設置

同事業は前述の通り新築も対象です。新築の場合は表①~⑲のすべてを網羅したうえで、下表「居住者等による交流を促す施設」を少なくとも一つ設置する必要があります。要件を満たした場合の補助額は対象工事費の 10 分の1(上限100 万円×戸数+交流施設上限 500 万円)で、改修の場合は補助対象事業の 3 分の1の補助額となります。

居住者等による交流を促す施設の設置

補助金を活用したリノベーションで空室対策を実施

事例1:3LDKから2LDKに変更 子どもを見守れる広いリビングに

築37年6階建て鉄筋コンクリート造福岡県北九州市 63.36㎡の物件

施工箇所

① 3LDK から 2LDK に間取り変更、子どもを見守れる広いリビングに ②対面キッチンとし、チャイルドロック付きコンロを設置 ③洗面所を滑りにくいクッションフロアに ④転落防止用に掃き出し窓に補助錠を設置し、サッシガラス面には防犯フィルムを貼付 ⑤玄関ドアには補助錠を設置 ⑥事故防止のためリビングから廊下/玄関へのドアはドアクローザーのレバーハンドルへ建具を変更等

そのほか

風呂等の水回りは既存設備をそのまま活用。キッチンやトイレを新しく交換

結果

子育て支援型共同住宅推進事業により100 万円の補助金を活用

事例2:2LDKから1SLDKに変更 光が差し込む広々リビングに

築16年地上階鉄筋コンクリート造東京都豊島区 56.73㎡の物件

施工箇所

①1LDK から 1SLDK に間取り変更、光が差し込み、子どもを見守れる広いリビングに ②シンク前面を開口し対面キッチンに ③洗面所をクッションフロアに ④不審者侵入防止のため、ガラス面には防犯フィルムを貼付 ⑤事故防止のため、リビングから廊下/玄関へのドアはドアクローザーのレバーハンドルへ変更等 ⑥サーモスタット水栓火傷防止カバーを設置

そのほか

浴室交換と同時にサーモスタット水栓火傷防止カバーを設置。3 カ月間は募集制限があるため、付加価値として、子育てしながらも在宅ワークに集中できるワークスペースを新設

結果

施工費は約 500 万円。子育て支援型共同住宅推進事業により100 万円の補助金を活用。家賃 6 万円アップで入居申込に成功

※グッドルームのホームページより

地域のつながりを強くするコミュニティの醸成をサポート

ご自身の物件の立地や環境について、しっかりと分析したうえで、子育て世帯にターゲットを絞って空室対策を行うことはどうやら検討する余地はありそうです。
ニーズに合った設備を提供するとともに情報提供などのソフト面の対策も必要です。子育て世代は情報収集の多くをインターネットや SNS などデジタルで収集している反面、子育てに関する地域の生活情報を交換できるリアルな仲間を探しています。また、働くことと子育てとの両立についての情報も常に求めていて、悩みや愚痴を言い合える仲間やママ友とコミュニティをつくろうとしています。オーナーはこのような身近なコミュニティの醸成をどのようにサポートしていけるかということを考える必要があります。
いざという時、何かあった時、自然と助け合いが生まれる「つながりのある地域」をつくっていくために積極的にコミュニケーションをとることが重要であり、オーナーの使命です。「地域のために動く」賃貸住宅経営こそが地域貢献につながるのです。

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