業界情報

空き家再生の現場から見えた
インフラ会社だからできる
地域貢献

全国で空き家が増え続けるなか、課題は地域の暮らしやコミュニティの維持にまで及んでいます。一方で、その空き家を地域資源として再生し、新しい動きを生み出している現場もあります。今回は、その代表例である、広島県尾道市で活動中の「NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト」を取材し、その取り組みを通じて、空き家再生の実際と、地域密着企業が果たし得る役割を探ります。

今後さらに深刻となる“空き家問題”

近年の空き家問題は、地方の一部に限った話ではありません。総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家総数は約900万戸に達しています。その内訳を見ると、共同住宅の空き家が約503万戸で全体の55.9%を占める一方、一戸建ても約352万戸あります。

さらに、国内最大級の民間シンクタンクである株式会社野村総合研究所は、2043年の空き家率が約25%まで上昇すると予測しており、特に一戸建ての腐朽・破損あり空き家は2023年の82万戸から2043年には165万戸へ、2倍以上に増える見通しを示しています。

空き家は今後、「あるのが当たり前」の存在になり、その利活用と管理の両面が地域の大きなテーマになっていきそうです。

出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」資料
出典:野村総合研究所「2028~2043年の空家数と空き家率」資料

空き家問題は、自治体だけでは解決できない

空き家対策というと自治体の空き家バンクを思い浮かべがちですが、実際の進め方は地域によって様々あります。その一例が、広島県尾道市で活動する「NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト」です。

同法人は2008年に設立され、空き家の再生や利活用を通じて地域に新たな価値を生み出してきました。これまでに20軒以上の再生を手がけ、尾道市から委託を受けて運営に携わっている空き家バンクでも150軒以上を成約に結びつけるなど、単なる地域貢献にとどまらず、事業として継続可能なモデルを構築しています。

代表を務める豊田雅子さんによると、全国的には自治体や不動産事業者が主導するケースが多く、制度に基づいた対応が中心に。一方で、エリアごとに民間団体が関わる体制では、個々の状況に応じたきめ細かな対応が可能になる傾向があるといいます。

ちなみに、同法人も、もともとは空き家バンクありきで始まったのではなく、尾道出身の豊田さん自身が街を歩き、空き家を探し、再生・活用に取り組むところから活動が始まりました。

再生しているのは家だけではない

同法人により再生された物件は、カフェやギャラリー、宿泊施設などにも活用され、新たな観光資源や雇用の場にもなっています。活動の軸は単なる建物の利活用にとどまりません。古い建物や景観を残すこと、廃材や古道具を再利用すること、新しい移住者を受け入れ、交流やコミュニティを生むことまで含めて、「尾道らしいまちづくり」を進めてきた点に特徴があります。

<尾道ガウディハウス>1933年築。約25年の空き家を経て再生された登録文化財の一棟貸し宿

空き家再生の大半は“現場仕事”

では、実際の再生はどのように進むのでしょうか。豊田さんによれば、物件ごとに契約形態は異なるものの、多くは建物内の片付けから始まり、修繕や設備の整備へと進んでいきます。古い住宅ではトイレが汲み取り式のままだったり、放置期間が10年、20年に及んでいたりして、雨漏りやシロアリ被害、家財の残置といった状態が見られることも珍しくありません。

そのため、木工や左官の工事、電気・ガス・水道といった設備工事など、さまざまな工種・職人が関わることもあり、ボランティアだけで完結するものではありません。費用も物件によって大きく異なり、傷み具合や車両の進入可否などによって左右されます。

車が入れない尾道の坂道では、資材の搬入も人力。再生の現場は、こうした急坂の上にある

地域密着企業だからできる、新しい関わり方

こうした話を踏まえると、空き家再生は不動産業や建築業だけの領域ではないことが分かります。実際、空き家に再び人が住むには、当然ながらインフラの整備も欠かせません。

再生の規模は小さな修繕から大がかりな改修まで幅がありますが、いずれにしても何らかの形でインフラ事業者が関わる場面は生まれます。

裏を返せば、地域に根ざしたLPガス事業者にとって、空き家再生の現場は自然な「接点」になり得るということです。地元の空き家問題、その最前線で力を発揮できる可能性がLPガス販売事業者には大いにあります。

もちろん、それ自体がすぐビジネスになるとは限りません。しかし、自治体、地元不動産会社、空き家バンク、尾道空き家再生プロジェクトのような取り組みを行う団体とつながりを持ち、設備面や住まいの相談役として関与していく余地は十分にありそうです。

尾道の山手に建つ元旅館・松翠園。その大広間では、60畳の座敷を活かした体育イベントを定期開催している

“地域を知っている”から担い手になれる

尾道のように、空き家をきっかけにまちづくりへと発展している地域ではどのようなことがカギになるのかと聞くと、豊田さんはこのように話してくれました。

「自分たちでどうにかしようと動く人がいなければ、たとえ誰かがお金をもらって関わっても、上手くいきづらいようです。やはり、地域への愛着があってこそ成り立つものだと思います」。

では、何から始めればいいのでしょうか。まずは地元の空き家バンクや自治体の担当窓口に足を運ぶこと。そこをきっかけに、再生の現場で必要とされるインフラ整備の担い手として関わっていくことが、一つの有効なアプローチといえそうです。特別なビジネスモデルを描くよりも、地域と接点を持つことが第一歩になります。

空き家問題は、地域課題であると同時に、地域事業者にとって新たな事業機会でもあります。設備更新やエネルギー提案にとどまらず、住まいの相談対応、地域との橋渡しまで含めて、関わり方は一つではありません。空き家問題を“地域の暮らしを守る取り組み”として捉え直すことで、新たな役割が見えてきそうです。

NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト

広島県尾道市を拠点に、空き家の再生と活用を通じたまちづくりに取り組むNPO法人。歴史的建物の再生に加え、環境配慮やコミュニティ形成、観光・アート活用など多面的な活動を展開し、地域住民や行政と連携しながら“尾道らしいまちづくり”を推進している。

尾道空き家再生プロジェクトの再生物件の一つ、尾道ゲストハウス「あなごのねどこ」前で。
最前列・一番右が代表の豊田雅子さん